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少子高齢化が進む中、介護は日本全体の大きな社会問題になっています。
そんな介護問題の中でも、ときに大きなトラブルの原因となってしまうのが「家族との関係」です。
生活のお悩みを3,000円で買い取り、記事にすることで社会問題を発信するお悩み買い取りプロジェクト。
今回、相談にいらっしゃった50代女性の「鈴木さん(仮名)」は、そんな介護と家族関係に関するお悩みを話してくださいました。
──鈴木さん、今日はどうぞよろしくお願いします。
鈴木:こちらこそよろしくお願いいたします。
──今回はどういったお悩みですか?
鈴木:5歳年上の姉と母の介護をしながら暮らしてきたんですけど、姉との折り合いが悪くて。家を出たいというか、出ないといけない状況で…
──お姉様と喧嘩をしてしまったということでしょうか?
鈴木:姉とはもともと馬が合わないので、めちゃくちゃ衝突しつつも、介護があるので同居を続けてきました。でも、いよいよお互いに限界が来たという感じです。
──なるほど…。ちなみにどうして限界になってしまったんですか?
鈴木:決定的な原因があったわけではないんですけど、「そんなに嫌ならもう出てけ」と姉から言われて、「それなら出て行ってやる」って言い返してしまいました。
──おお…!結構激しめの喧嘩ですね。
お姉様と介護をしてきたってことですけど、介護歴は長いんですか?
鈴木:今私は50代なんですけど、20代からしています。
──ずいぶん長い間介護をしてきたんですね。
お母様とお姉様の3人暮らしと仰っていましたけど、お父様は?
鈴木:父は他界しました。
私が20代半ばの頃、最初父が病気になり、その数年後には母も病気になって。
それからずっと介護をしています。
──お父様の介護もされていたんですか?
鈴木:父は家で看られるレベルではなかったので施設に入っていました。
母は補助があれば自分のことは自分でできるので、デイサービスを利用しつつ、姉と家で看ています。
──ヤングケアラー(若い介護者)の方から介護が続くことへの漠然とした不安や、やりきれなさなどのお悩みを聞くことが多いんですが、鈴木さんもそういうご経験はありますか?
鈴木:介護は先が見えないですしね。状況が良くなることは絶対にないんで、若い方だと確かにそうですよね。
──「早く終わってほしい」って思う自分も嫌じゃないですか。
鈴木:そうなんですよ。
──家を飛び出しちゃいたくなる時はなかったですか?
鈴木:飛び出しちゃおうとした時はありましたけど、「介護が嫌」っていうわけではないんですよね。
──お姉様が理由という感じですか?
鈴木:そうです。
私の場合は姉と仲が良くないのが1番大きな理由で、「介護はするけど家を出たい」という感じですね。
──実際にお部屋を探されたりもしたんですか?
鈴木:実際に部屋探しをしたこともあるんですけど、そういう時に限って父だったり母だったりが体調を崩したんですよ。
──それは探しづらい…
鈴木:それで病院に連れて行ったりとかで、「うちら喧嘩してる場合じゃないよね」っていう話になって落ち着くんですけど、喉元過ぎるとまた喧嘩して口をきかなくなって。
その後、また父や母が体調を崩して「喧嘩するのやめよっか」っていうのを繰り返してます。
なので家探しは試みたことはありますけど、実際には家を出たことはありません。
──お二人とも優しいんですね。ちなみに今お仕事はされているんですか?
鈴木:アルバイトをしています。
──お姉さんも?
鈴木:姉もアルバイトをしていて、あとは母の年金で、ぎりぎりの生活をしています。
経済的に「これはまずい」というレベルなので、役所で生活保護の相談もしたんですけど、ダメなんですって。
──何て言ってました?
鈴木:「二人で稼げばいいじゃん」って言われました。
──そんなに簡単な話ではないですよね…
鈴木:そう、だってフルタイムで働いたら、誰が母の面倒を看るの?
──2人ともフルタイムで働いたら、お母様を家では看られないですよね。
鈴木:「家で看られないんだったら施設に入れちゃえばいいじゃん。施設代も稼げばいいじゃん。全然働けるっしょ。」みたいなことを言われました。
──正論ではあるけれど…
鈴木:父のことも心残りなので母は家で看たいんです。
父は家で看られる状態ではなかったから施設に入れるしかなかったんですけど、母は施設に入れたくなくて。間違いなくボケるし、足腰も弱ることが心配なんですよね。
──施設に入って一気に認知症が進んだり、寝たきりになってしまうことも多いらしいですよね。
鈴木:一日二日入院しただけでも足腰が弱るので、それが何週間何ヶ月何年ってなって、完全に寝たきりになるのを身近で見てきました。
「そんな母の姿を見たくない」っていうところは、姉とも考えが一致しているんです。
──感情抜きで考えると「施設に入れる案」にはうなづける部分はありますけど、お父様のこともあるしお母様は家で看たいって気持ちになりますよね。
鈴木:あと役所の人から「どっちか一人がフルタイムで仕事して、どっちか一人が完全に家のことをやればいい」って言われたんですけど、それもなかなかハードで…
──片方に介護を任せっきりになると肉体的にも精神的にも辛いですよね。
鈴木:姉とも話して、「それもちょっと難しいよね」ってことになって。
それぞれが短時間でも仕事をしつつ、家のこともするというスタイルで、ずっとやってきている感じです。
──お姉様とは介護の方針では一致しているんですね。
鈴木:そうですね。介護があったからなんとか一緒にいた感じなんで、介護がなければ姉とはまず一緒にはいないです。
事あるごとに、「私がこうなったのはお前のせいだ」って姉が言うんですよ。「お前が頼りないから家を出られないんだ」って。
──あまり言われると、「私を理由に使わないでください」って気持ちになりますね。
鈴木:神経質なんですよね。私がコロナに感染した時も、「外から帰ってきたら絶対に着替えろ」とか「家の中で常にマスクしろ」とか、私が使った物や場所を消毒しまくったり、本当にばい菌扱いされてました。
──なりたくてコロナになっているわけじゃないのに、辛いですね。
鈴木:狭い賃貸なので仕方ない部分もあるんですけど、家の中で逃げ場がない。五類移行後も家の中でマスクをしなきゃダメだったし、もうすごい神経質で…
──お母様にうつしたくないのは分かりますが、それだと気持ちが休まる場所がなくなってしまいますね…
鈴木:いつまでもそういう感じだったから、「やっぱり私のこと嫌いなんだな」って思って。
口喧嘩して姉から文句を言われたときに、私も売り言葉に買い言葉で「それなら出て行ってやる」って言い返しちゃったんですよ。
──お二人とも爆発してしまった感じでしょうか?
鈴木:今まで溜め込んでいた怒りが一気に爆発した感じです。
──ちなみに今の家はそれぞれ自分の部屋があるわけでもないんですよね?
鈴木:いや、ないんです。どこにいても相手が見えちゃう間取りなんで、どこにいても逃げ場がない。
──何をするにもお互い視界に入るってことですね。
鈴木:そう、見えちゃう。
──家族と言えども一人になれる場所がないと、クールダウンできないですよね。常に視界に入っていると、イライラも募りやすいですしね。あと今いらっしゃるエリアは家賃が高めですよね。
鈴木:同じエリアで引っ越ししたことはあるんですけど、母が通うデイサービスは変えたくないっていうのがあって、そのエリアから引っ越せないんですよ。
公営住宅にも申し込んでいるんですけど、なんせ当たらない。
──お家賃面でも家族間のプライバシーを確保する上でも、家族での引っ越しが選択肢に入れられるといいですけどね。今回鈴木さんが出るってなったら、お姉様一人で家賃を支払うのは問題ないんですか?
鈴木:全然話さないので分からないですね。姉とは同じ部屋にいてもメールで業務連絡しているレベルなので。
──介護の負担が増える点もお姉様は大丈夫なんですか?
鈴木:私と一緒にいるよりは、一人で介護の道を選ぶ。それだけですよ。
「あとはこっちでなんとかするから、とにかく出てってくれ」っていう感じなんだと思います。
──お姉様と話せていない点はちょっと心配ですけど、一度距離を置いた方がお互いに冷静になれるかもしれませんね。
鈴木:やっぱり距離感が近すぎると絶対喧嘩になってしまうので、できれば家を出たいですね。
──ただ、一人暮らしするにもお金がかかるので、フルタイムで働かないと大変になっちゃうんですよね。今のアルバイトは、そのままフルタイムで働ける感じですか?
鈴木:多分そのままフルタイムで働けるとは思います。
──引っ越しする前に、仕事があるに越したことはないので、その点は安心しました。
鈴木:そうですよね。
──うちでやっている「コシツ」という賃貸サービスは、無職の方にも物件を貸しているんですけど、入居後なかなか仕事が見つからなくて家賃が払えなくなってしまう場合も多いです。
鈴木:そうなるとすぐ退去になって、借りるときの初期費用が無駄になっちゃいますね。
──そうなんです。ちなみにお母様は今の状況をどう思っているんですか?
鈴木:母は介護してもらっているということで姉と私に対して申し訳なく思っていて、さらに私達二人の喧嘩を見ておろおろしています。
いきなり「ごめんね」って言ってくるので、「私たちの問題だから気にしないで。お母さんのせいじゃないから大丈夫。」とは伝えていますけど。
──お母様は胸を痛めているんですね。
引っ越ししても鈴木さんは何らかの形で介護に関わるんですか?
鈴木:私自身は介護に関わりたい気持ちがあるんですけど、姉が拒否しているので分からないです。
家を出れば母と電話で話したり会ったりできなくなるので、そこは気が引けます。
──じゃあ結構覚悟がいる引っ越しですよね。
計画的に仕事をフルタイムに増やして、家探しをしてお引っ越ししてっていう流れですかね。
その過程で何かお困りのことがあれば、またご連絡ください。
今日はお話をお聞かせいただいてどうもありがとうございました。
鈴木:こちらこそありがとうございました。
その後しばらくしてから鈴木さんから連絡があり、まだお姉さまとお母様が暮らす家にいらっしゃることが分かりました。
一人暮らしに向けて動いていたものの、頓挫しているとのこと。お姉さんからも家を出るなら家賃を払うように言われ、現状を打破できずお困りのようです。
Relightでは、鈴木さんが安心できる形で一人暮らしが実現できるように、引き続き継続的にサポートしていきたいと考えています。