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生活のお悩みを3,000円で買い取り、記事にすることで社会問題を発信する「お悩み買い取りプロジェクト」。
今回買い取りさせていただいた「田中さん(仮名)」は30代前半の女性の方です。
憔悴しきった様子でご来社し、か細い声で言葉に詰まりながらも、お困りのことを少しずつ話してくれました。
※インタビューは2024年1月に実施
市川:
田中さん、はじめまして。どうぞよろしくお願いします。
早速ですがどんなお悩みがありますか?
田中:
家を来週までに出ないといけなくて…
でも物が片付いていないんです…
市川:
それは大変!引越し先は大丈夫ですか?まだ決まっていない?
田中:
決まっていない…
市川:
その相談でいらっしゃったんですね。
田中:
(こくりと頷く)
市川:
あの、どうして家を出なければいけなくなってしまったんですか?
田中:
去年9月に心筋梗塞で父が突然亡くなって、一緒に住んでいた家の家賃が高いので出ようかなと思ったんです。
けど、家を出るにも費用がないっていう…
市川:
お父様と二人で暮らされていたんですか?
田中:
(こくりと頷く)
市川:
二人暮らしの家ですし、不用品を整理する費用も結構かかりますよね。
家賃はおいくらなんですか?
田中:
9万円。
市川:
なるほど。二人ならいいですけど、一人だと高いですよね。
お仕事はされているんですか?
田中:
働いていたんですけど、休職してました。
今は退職のため、有給消化中という状況です。
市川:
有給も間もなく消化し終える感じですかね?
田中:
もうすぐ有給も終わります…
市川:
そうすると収入もなくなりつつあるんですね…
ちなみにどんなお仕事をされていたんですか?
田中:
大学病院の手術室の清掃を2年近くしていました。
市川:
手術室の清掃って生々しいものも目に入ってきて、結構大変じゃないですか?
田中:
血を見るのとかは平気だったんで、淡々とやってました。
市川:
そっかそっか。割と淡々とできたんですね。
先ほど「休職した」って仰っていましたけど、お父様のことが理由ですか?
田中:
残業が多かったのが理由です。
誰でも入れる職場って感じだったので人間関係も特殊で、色々ありすぎて「ポン」って何かがはじけたみたいになって、辞めちゃった…
市川:
お父様の死も重なりましたもんね…
田中:
精神的に…溜まっちゃったって感じ…
市川:
家を出る期限も迫っていて追い詰められちゃいますね。
まとまったお金が必要な状況ですけど、今は働ける状態ではないですか?
田中:
単発の仕事はしています。
一日一日場所が変わるので、人間関係も特になく、精神的には楽です。
市川:
単発のバイトには行けているんですね。
でも家賃9万だと、毎日がっつりバイトしないと生活がしんどいか…
「生活費に消えちゃって家賃分は残らない」という状況ですかね?
田中:
(こくりと頷く)
市川:
二人暮らしされてたってことは、荷物は結構ありますよね?
田中:
めちゃくちゃあります。
不用品買取業者の人に見積もりをもらったら、処分するのに30万~100万円かかるって言われました。
市川:
めっちゃあるなあ(笑)
田中:
4人家族分の不用品があるって言われました。
私が生まれる前から親が住んでいて、ずっとそのままです。
箪笥とか大きな子ども机とかも置きっぱなしでごみ屋敷レベル。
市川:
おお、かなりのレベル!
荷物のことは大変ですけど、田中さんの表情が和らいできたのは、嬉しいです。
お父様は亡くなる前までは仕事とか何かされていたんですか?
田中:
もう年だったんで、年金生活でした。
市川:
そっかそっか。相続とかそういうのもなかった?
田中:
そうですね。せいぜい年金数十万円が残っているくらい。
市川:
それは田中さんが相続できるものなんですかね?
田中:
もらえるとは思うんですけど、確認中です。
市川:
ちなみに手持ちで自由に使えるお金ってあといくらぐらいありますか?
田中:
1,000円とか…
市川:
電気代とか光熱費は払えていますか?止められてはいない?
田中:
電気は今月一回止まって復旧したって感じです。
市川:
えええ!最近特に寒くなったから、電気が止まったら凍えるよ!
田中:
ガスはまだ止まってなかったんで、「ぎりセーフ(ぎりぎりセーフ)」っていう感じでした。
湯たんぽがあったから、それを使ったりして、サバイバルです(笑みを見せる)。
市川:
それはサバイバル(笑)とりあえず電気が復旧してよかったです。
市川:
お父様以外の家族に頼るのは難しい状況ですか?
田中:
私が小学生の頃に両親が離婚して、母の連絡先は分かりません。
兄とは喧嘩中というか、今は縁が切れているような状態です。
市川:
お母様は離婚後家を出られて、お父様とお兄様と3人になったんですね。
田中:
…施設で育ったんですよ、私。
市川:
養護施設で?
田中:
はい。ちょうど両親が離婚した時に兄と私は同じ施設に預けられて、高校卒業までそこで育ちました。
市川:
そうだったんですね。施設での生活はどうでしたか?
田中:
施設で生活してた時が一番自分らしくいられて楽しかったんです。みんな仲が良かったので、女子寮みたいな感じでした。
市川:
仲間に囲まれて、素の自分でいられる場所だったんですね。
そうしたら、お父様が暮らしていた家には高校を卒業してから引っ越されたんですか?
田中:
私が高校3年生の時に父が年齢的に仕事を続けられなくなって、それで「こっちで働いて家賃を払ってほしい」って言われて引っ越して、同居が始まったんです。
市川:
えええ?何それ!
「同居して家賃入れてよ」って言われた時「は?」って思いませんでしたか?
田中:
子どもの頃から上から命令される感じだったから、逆らえなかったんです。
市川:
「お父さんの言うことは絶対」みたいなところがあったんですね。
じゃあ9万円の家賃を田中さんが今までずっと払ってた?
田中:
プラス2ヶ月ぐらい父が滞納していた家賃も、学生時代に貯めた貯金を切り崩して私が払ったんですよ。
市川:
え!?滞納していた家賃まで!
家族で暮らしていた家に、離婚後もお父様が一人で住み続けていたってことですよね。引っ越せなかったのかな?
田中:
兄が一度「お父さんはこっちでみるよ」「一人で生活したいでしょ?」って私に言ってくれたんですよ。けど父が「ここから離れたくない」って言い張って家を出なくて…
だから今こういう状況です。
市川:
頼むよ、お父さん!(笑)
別々に住むわけにもいかなかった?
田中:
全部自分で支払うってなるときついから…父が年金で払って、私も働いて払って、按分していたからなんとかバランスが取れていた感じです。
市川:
なるほどねえ。
ご両親の離婚で施設で暮らすことになって、お父様に呼び戻されて、今度はお父様が突然亡くなられて…色々あった末に、いきなりターニングポイントがきた感じですね。
お友達とかどなたか相談にのってくれる人はいますか?
田中:
施設時代の友人がいます。子育てで忙しいので今の具体的な状況は話していないですけど、家庭環境のことも理解してくれているし、今でも連絡を取っています。
市川:
施設時代のお友達がやっぱり一番なんですね。
田中:
当時から普通にタバコを吸っていたし、周りからは「ヤンキー」と呼ばれるタイプの友人なんですけど、根が優しくて自分のことを分かってくれる存在ですね。
市川:
田中さんのことを理解してくれる大切な存在なんですね。
市川:
役所には相談に行きましたか?
田中:
「生活保護」で検索したら、まだ収入がある状態だから微妙なのかなと思って行ってないです。
市川:
前月の収入次第なんですよ。だから今の時点だと確かに微妙なところですよね。
「相続できるかもしれない」というお父様の年金も資産にみなされるか微妙なところではあるかも。
今は「働く」っていうよりは、どちらかと言うと「家があればいいな」って感じですか?
田中:
そうですね。でもぼちぼち働こうかなとは思ってはいます。
市川:
毎日がっつり働くのは、体調面でまだちょっと厳しいですよね?
田中:
そうかもしれないです。
市川:
役所の制度もいろいろあって、利用できるものがあるか今この時点では分からないですけど、体調面も経済面も厳しい状況だと思うので、今日明日にでも一度役所に相談に行った方がいいかもしれないですね。
もし生活保護を受けられなくても、役所が用意してくれる施設に入れば、とりあえずそこで生活できますし。ひと月働かなければ無収入になるので、それから生活保護を受けて、家を借りたり少しずつ生活を立て直すっていう感じになるのかなと思います。
田中:
ネットで調べた時は生活保護は完全にあきらめていたし、他にも制度があることを全然知らなかったので、少し光が見えた気がします。
市川:
もし役所で上手くいかなかったとしても、他の選択肢もあるので、その時はまた連絡してください。
役所での流れがイメージできると不安も和らぐと思うので、この後、役所のどの窓口に行けばよいかなどを説明しますね。
ここまでお話を聞かせてくださってどうもありがとうございました。
翌日田中さんからご連絡をいただき、生活保護の手続きなどを無事進められていることが分かりました。インタビュー後、その足で役所に相談に行かれたようです。
「住まいの方も何とかなりそう」とのことでスタッフ一同安堵しました。
田中さん、この度はお悩み買取をさせていただきまして、どうもありがとうございました。